大阪高等裁判所 平成11年(ネ)1773号 判決 1999年8月27日
控訴人(原告)
松下剛
被控訴人
竹浦剛志
主文
一 原判決を取消す。
二 被控訴人は控訴人に対し、三三九二万四九七〇円及びこれに対する平成五年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 控訴人のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
五 この判決の二項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取消す。
2 被控訴人は控訴人に対し、三五五五万六七一五円及びこれに対する平成五年一月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二事案の概要
次のとおり訂正するほか原判決記載のとおりである。
一 三頁五行目の「衝突した」の次に「(以下「本件事故」という。)」を加える。
二 五頁五行目の「入通院慰藉料」を「慰藉料」と改める。
三 七行目の「弁護士費用」の次に「三〇〇万円」を加える。
四 九行目の「事実は知らない、」を「傷害の内容、後遺障害の事実は知らない、」と改める。
五 六頁二行目から五行目までを左記のとおり改める。
「本件事故は平成五年一月二一日に発生したものであるところ(症状固定日は平成七年三月二五日)、本訴は本件事故発生日から三年以上経過して提起されたものであり、控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権は時効により消滅している。被控訴人は本訴において右消滅時効を援用する。」
六 八行目及び九行目を左記のとおり改める。
「(1)被控訴人は、控訴人に対し、損害賠償の内金として、別紙「原告への支払金一覧表」記載のとおり支払った。」
七 七頁三行目及び四行目を左記のとおり改める。
「仮に右(1)ないし(3)の事実が債務の承認にあたらないとしても、控訴人の症状は平成七年三月二五日に固定したところ、控訴人代理人は、平成一〇年三月一六日到達の書面をもって、被控訴人代理人に損害賠償の請求をしているから、後遺障害部分についての損害賠償請求権については時効が中断している。」
八 六行目の「(1)」の次に「被控訴人が、控訴人に対し、別紙「原告への支払金一覧表」記載のとおり支払った事実は認める。なお、」を加える。
第三証拠関係
原審記録中の証拠関係目録記載のとおりである。
第四判断
一 本件事故による控訴人の受傷と損害
1 証拠(甲一ないし五、六ないし九の各1ないし14、一〇の1及び2、一二の1ないし3、一三及び一四の各1ないし14、一五、二〇ないし二二、二三の1及び2、原審控訴人本人、弁論の全趣旨)によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 本件事故により、控訴人は第三腰椎粉砕骨折、脊髄損傷、左上腕骨近位端粉砕骨折の傷害を負い、本件事故当日から医療法人祐生会みどりケ丘病院に後記のとおり入通院し、平成七年三月二五日症状固定し、脊椎の奇形、骨盤骨の奇形、左肩関節の運動障害、腰部から下肢にかけてのだるく重い感、左肩部、後腰部及び左腹部から背中にかけての長い手術痕を残した。右のうち、脊椎の奇形は等級表一一級、骨盤骨の奇形は等級表一二級、併合等級表一〇級に相当する後遺障害である。
(二)(1) 控訴人の入通院の経過は左記のとおりであり、入院当初の二五日間は付添看護を要した(なお、甲二及び三には、医師からの付添看護を要した期間欄の記載はないが、控訴人の受傷の内容、程度、被控訴人側も本訴提起前は二五日間の付添看護の必要を認めていたこと(甲一〇の1及び2)等の事情によれば、右のとおりと認めるのが相当である。)。
<1> 平成五年一月二一日から同年五月六日まで 入院
<2> 同年同月七日から平成六年一月一〇日まで 通院
<3> 同年同月一一日から同年二月一〇日まで 入院
<4> 同年同月一一日から同年九月四日まで 通院
<5> 同年同月五日から同月三〇日まで 入院
<6> 同年一〇月一日から平成七年三月二五日まで 通院
右のうち、入院日数は合計一六三日、通院についての実日数は六五日である。
(2) 以上により、右入通院雑費として、二一万一九〇〇円(一日一三〇〇円の一六三日分)、付添看護費用として一一万二五〇〇円(一日四五〇〇円の二五日分)を認めるのが相当である。
(三) 治療用の装具代として、一〇万円を要した事実が認められる。
(四) 休業損害について
(1) 控訴人は本件事故当時グンゼ株式会社のSOZ事業本部の製造部で稼働し、社内外での産業用ロボットの組立の仕事に従事していたが、本件事故による前記受傷のため、より軽度の作業である社内での製缶係りに配置換えになった。控訴人の右配置転換及び本件事故による入通院等の欠勤により、残業手当、出張手当等の割増賃金や賞与が減額となり、控訴人に減収をもたらした。
(2) 給与減収分
<1> 本件事故前三か月間(平成四年一〇月分から一二月分)の割増賃金の月平均支給額は五万一五二一円であり、当時の基本給一四万八六〇〇円の三四・六七パーセントであった(甲六の10ないし12)。
<2> 本件事故後の平成五年一月から控訴人が症状固定した平成七年三月までの現実に支給を受けた割増賃金は一三万五八三三円であるが、この間の基本給の総額は四二六万五八〇〇円であるから(甲七の1ないし12、八の1ないし12、九の1ないし3)、右基本給総額に<1>で試算した基本給に対する割増賃金率を乗ずると一四七万八九五二円となり、この金額と右現実に支給を受けた割増賃金との差額一三四万三一一九円は本件事故による休業損害の一部と推定される。
(3) 賞与の減収分
<1> 本件事故前の平成四年の年間賞与は合計七九万九四五五円であるが、うち、満勤算定支給額(基本支給額・夏季、年末とも基本給の二・二月分)部分は六五万三八四〇円、考課金額部分は一四万五六一五円であるから、右考課金額部分は、右満勤算定支給額(基本支給額)部分の二二・二七パーセントにあたっていた(甲六の13及び14)。
<2> 本件事故後の平成五年と平成六年の賞与の満勤算定支給額(基本支給額)部分の合計は一四〇万五八〇〇円であるが、この金額に右<1>の考課金額部分率を乗ずると、三一万三〇七一円となり、右満勤算定支給額に加算すると、合計一七一万八八七一円となる。この間の現実に支給を受けた賞与は七六万一二六六円であるから、その差額の九五万七六〇五円の範囲内であり、かつ控訴人主張の給与減収分九三万五七六四円は、本件事故による休業損害の一部と認定するのに支障はない。
(五) 逸失利益について
前記のとおり、控訴人は平成七年三月二五日、等級表一〇級に相当する後遺障害を残して症状固定したが、これによる逸失利益は次のとおり二二四八万六一七四円となる。
平成六年に得べかりし年収
三五八万五〇〇三円(甲六ないし八の各1ないし14により、前記基本給に対する割増賃金率、賞与に対する考課金額率を考慮すると、少なくとも右年収を得ることができたと推認できる。)
労働能力喪失率
二七パーセントを四五年間
稼働可能年数四五年間(六七年―二二年)の新ホフマン係数
二三・二三〇七
(六) 慰謝料
左記金額をもって相当と認める。
(1) 入通院分 二四七万円
(2) 後遺障害分 四四〇万円
(七) 以上(二)ないし(六)認定の損害額の合計は、三二〇五万九四五七円となる。
2 既払分を控除した額
控訴人が本件事故による損害金につき、被控訴人から既に一一三万四四八七円を受領していることは控訴人の自認するところである。
右一部弁済額を1の(七)の金額三二〇五万九四五七円から差し引くと、三〇九二万四九七〇円となる。
3 弁護士費用
弁護士費用としては、三〇〇万円が相当である。
4 以上の検討によれば、控訴人は被控訴人に対し、本件事故によって受けた損害のうち、2及び3の合計三三九二万四九七〇円及びこれに対する本件事故の日である平成五年一月二一日から完済まで年五分の割合による遅延損害金支払い請求権がある。
二 消滅時効について
1 被控訴人が、控訴人に対し、原判決添付別紙「原告への支払金一覧表」記載のとおり支払った事実は当事者間に争いがないところ、平成七年六月一四日の被控訴人から控訴人への支払い(甲一六の6)が、後遺障害診断書代であったとしても、右診断書代を病院に支払ったのは控訴人であって、その代金が本件事故によって被った控訴人の損害の内容の一部を構成することは明らかであり、右損害の一部支払いは、時効の中断事由である債務の承認にあたることは論をまたない。
被控訴人は、右後遺障害の診断書代を支払ったのは、本件事故による控訴人の治療状況を把握するための調査費用の一部に過ぎない旨主張するが、たとえ被控訴人が後遺障害診断書を取得したのが右調査目的であったとしても、そのことが、被控訴人において控訴人の損害の一部を支払ったことによる時効中断事由である債務の承認の効果に何ら影響を与えるものではない。
2 本件事故による控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権の消滅時効の進行は、本件事故の日の平成五年一月二一日から三年を経過する以前の平成七年六月一四日に中断し、本件訴訟は同日から三年を経過する以前の平成一〇年六月一日に提起されたものであるから、被控訴人主張の時効の抗弁は理由がない(なお、控訴人が主張する他の時効中断事由も全て肯認することができるが、右債務の一部弁済による時効中断事由が認められる以上不要な判断であるから、詳論しない。)。
三 好意同乗減額、シートベルト非着用による減額について
1 被控訴人の主張によるも、右主張の事実はいわゆる好意同乗による損害賠償金の減額事由たり得ず、主張自体失当である。
2 原審控訴人本人によれば、本件事故当時、控訴人はシートベルトを着用していなかったが、控訴人が本件事故の際、車外に投げ出されたか否かについては不明であるのみならず、シートベルトの不着用が控訴人の受傷を拡大したとの事実を認めるに足りる証拠はない。
四 結論
被控訴人の抗弁はいずれも理由がなく、控訴人の請求は、被控訴人に対し、三三九二万四九七〇円及びこれに対する平成五年一月二二日(本件事故の日の翌日・控訴人の請求)から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。したがって、控訴人の被控訴人に対する請求は、本判決主文二項掲記の範囲で認容し、その余は棄却すべきであるから、本件控訴は一部理由がある。
よって、右と結論を異にし、控訴人の請求を全部棄却した原判決を取消した上、主文のとおり判決する。
(裁判官 永井ユタカ 菊池徹 宮本初美)